ムーラン(林)です。

スーパーで天然の尾頭つき鯛がお値打ちに売っていたのを見つけた。迷わず購入し、その日の夕食は鯛の塩焼きにした。
結構な大きさ、そして天然なので日焼けしておらず、美しいさくら色の真鯛。
夫と二人では充分すぎるほど食べ応えがあり、ふっくらと美味しかった。

そして、何だか涙が出そうになった。

なぜかと言うと、一昨年に亡くなった父を思い出したから。
父は若い頃から海釣りが趣味だった。 しかも沖へ出て、主に磯釣りなので大物狙い。
鯛やハマチ、イサキ、時にマグロの子どもなどを釣って帰って来た。
特に真鯛は結構釣れるようで、何度もお裾分けをもらい、刺身にしたり塩焼きにしたりと、私たちは贅沢に頂いていた。それは、どこで食べる鯛よりも美味しかった。 お刺身は透明で美しく、塩焼きはふっくらと柔らかく。

娘も息子もこの鯛は大好きだった。

そんな事を思い出しながら、夫と二人「久しぶりに美味しい鯛を食べたね」と堪能した。

たまたま別件でLINEをしていた息子に「天然の真鯛が売ってたから買ってきた」と伝えたら「でもきっと、じぃちゃんが釣ってきた鯛には敵わんよね」と、返信がきた。
ますますホロッとした。
息子も父の釣ってきた鯛の味をちゃんと覚えているのだな、と。
この言葉を聞いたら、父は喜ぶだろうな。

息子が小さかった頃、父はよく「釣りやらんか。教えてやるぞ」と息子に言っていた。 成長した孫と一緒に沖に出て、本気の釣りをしたかったんだろう、と思う。残念ながら息子は船が苦手で乗り気ではなかったが。
でも何度か堤防からの釣りは一緒に楽しんだ。父が懇意にしていた紀伊長島の船宿に泊まり、大そうなご馳走も食べた。

‥‥そんな事やあんな事を思いながら食べた鯛は、ふんわりホロッと海の味がした。