ジャポニカ

榊原(葉っぱ)です。

私の実家には20冊ものジャポニカという百科事典が本箱にある。
昭和43年、小学館から発行されたものだ。
もう50年以上前になる。

この本の一冊めを買ってもらったのは私だ。
小学3年生だった私。
本が好きで文学少女だった。
親戚の人たちに「よくそんな難しい本をよんでいるね。すごいね。」と褒められ、
私は本を読むのは褒められることなんだと知った。、
そして、難しい本を読めば読むほど褒められるのだと思った。

実家には私が読んでいたその頃の本もまだ残っているが、
低学年向けに書かれた『ああ無情』とか『聖書のはなし』とかの本もあって、
その頃読んだという記憶はあるが、本当にわかって読んでいたのかと思う。

小学3年生の時、祖父が孫たちにクリスマスプレゼントに何がいいか聞いてきた。
孫の三人の女の子(私と妹と妹と同じ年の従妹)に祖父は「何でもいいぞ。」と言った。
妹たちは当時流行っていた着せ替え人形が欲しいと言った。
私もそれが欲しかった。
「私も。」と言う前に祖父が「葉子はやっぱり本か?」と言った。
私は咄嗟に「お人形」という言葉を飲み込み「ジャポニカ」と言った。
ジャポニカはよくわからないけど、なんだかすごく難しい本だと思ったのだ。

クリスマスの日、サンタさんから分厚い本が届いた。
開けてみると細かい文字が並んでいる。難しい漢字ばかりで何が何だかわからなかった。
隣では妹が包みの中から人形を取り出し大喜びだった。
私は涙がこぼれそうだった。

この話は親戚中に広まって「やっぱり葉子はすごいね。」ってことになり、
父母は嬉しくて全巻そろえることになったのだった。

結局ジャポニカを私が読むことはなく(読むものじゃないと思うけど)、本棚に飾られた。

今ではスマホやパソコンで何でも検索できるし、百科事典を買う人は少ないだろう。
もうこの百科事典も廃棄かなと思う。
ほろ苦い少女時代を思い出した。

しかし、すごいのは父だった。
父はこのジャポニカ全20巻を全部読んだのである。
事典を読むなんて思いもよらないが、父は最初のページからひとつひとつ読んでいた。
毎日読んでいた。
その姿は私の脳裏にある。

もうすぐ90歳になる父に「ジャポニカ捨てていい?」と聞けないでいる。